EC売上アップ術
◎第93回 ECサイトで効率的な売上アップを実現するABC分析の活用法
ECサイトを効果的に成長させるには、サイトの分析や解析、そして施策を繰り返すPDCAが非常に重要となります。ABCデータ分析において、基本となるのは比較です。単一のデータのみを分析するのではなく、ECサイト全体のデータを分析し、相互に比較し可視化することで、的確な課題の発見につながります。この記事では、ECサイトの売上アップ実現において有効な手段である、ABC分析の方法やメリットをご紹介します。
◎ECサイトの売上アップに欠かせないABC分析
ABC分析は、ECサイトの売上分析において活用されている手法で、パレートの法則に類似した概念です。パレートの法則は、19世紀にイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートにより提唱されました。全体の数値の大部分は一部の要素が生み出しているという考え方で、80:20の法則とも呼ばれています。その考え方をECサイトに当てはめると、全体の売上の80%は20%の商品に起因していると、解釈することができます。
ABC分析は重機分析とも呼ばれ、もとは製造業において在庫管理などの資金的重要度の分析に活用されていました。近年では、各種製造業から物流、小売りなどの品質管理や得意先管理など、さまざまな業種に取り入れられています。ECサイト運用においても、ABC分析を効果的に活用することで、在庫管理の最適化や人件費の合理化によるコスト削減などが期待できます。
ABC分析をECサイトの売上アップに役立てるためには、利益額に着目した分析を行うことが重要です。具体的には、ECサイトで取り扱う全商品の販売数、利益率、在庫数などをひとつの表にまとめ、特定の評価基準によって順に並べます。そのうえで、上位20%をAランク、次の30%をBランク、残りの50%をCランクに分類します。それを先ほどのパレートの法則に当てはめると、上位20%のAグループの商品が、ECサイトの売上の80%を生み出していると結論づけられます。ECサイトの売上に対するBランクの商品の貢献度は中程度であり、重要度が1番低いCランクは、ECサイトで取り扱っている商品全体の50%を占めていることになります。これらの結果から、ECサイトの売上アップにおいて、どの商品に注力すべきか明確になります。なお、それぞれのグループの比率は必ずしも決まっているものではなく、ECサイトの状況や分析の目的、評価基準などにより変動します。
◎ECサイトにおけるABC分析活用のメリット
ECサイト運用にABC分析を活用することで、ECサイトの売上に対する貢献度が高い商品や顧客グループを明確に把握できます。また、「なんとなくそんな気がする」といった個人の感覚や経験に頼らない、客観的データにもとづいた経営判断が可能となることも、大きなメリットです。ECサイトの数値データを可視化できるため、経営陣だけではなく現場スタッフも直感的に現状を把握でき、意思決定が迅速に進みます。さらに、パレート図を作成するとECサイトの分析結果を視覚的に判断でき、数字に苦手意識のある従業員にとってもわかりやすくなります。
ECサイトの販売戦略においても、格安セールなどの短絡的な施策ではなく、データにもとづいた効率的かつ効果的な戦略立案や広告宣伝の最適化が可能となります。たとえば、ABC分析により明確となった貢献度の高い商品を、ECサイトのランディングページやメールマガジンで紹介すれば、ECサイトの売上アップにつながるでしょう。ECサイトのABC分析を継続的に実施すると、施策ごとの売上変動やトレンドを把握しやすくなり、マーケティング施策の効果検証やPDCAサイクルの推進が可能となります。また、ECサイトのABC分析を顧客データに応用すれば、売上や購入頻度の高い顧客を特定でき、そのターゲット層に合わせたプロモーション展開ができます。
さらに、ECサイトの在庫管理にABC分析を活用するなら、コストの最適化や在庫リスクの低減につながります。たとえば、ECサイトの生産コストや販売コストが高いCランクの商品を特定できるかもしれません。そうするなら、その商品の取り扱い縮小や入れ替えを判断でき、商品ラインナップの最適化や事業方針の見直しに役立ちます。ECサイトの売上へ直結しにくい商品は、仕入れを最小限におさえて在庫スペースを有効に活用できるでしょう。ABC分析によって、倉庫作業の効率化が可能になることも大きなメリットです。たとえば、出荷頻度の高いAランク商品を取り出しやすい場所に配置して、ピッキング作業の導線を短縮できます。作業効率のアップは、ECサイトにおける人件費コストの削減にもつながります。
在庫を持たないECサイトのビジネスモデルにとって、ABC分析はサプライチェーンの強化につながるというメリットもあります。ABC分析を行うと、ECサイトの人気商品や注力すべき商品が明確になります。そのデータをサプライヤーとの交渉に役立てるなら、欠品など在庫不足による機会損失を防ぐことができ、安定した商品供給体制を構築できます。
◎基本的なABC分析の方法
ECサイトにおけるABC分析は、Excelなどの表計算ソフトを活用して効率的に行えます。まずは、ABC分析を実施する期間の設定が必要です。一般的には、ECサイトに蓄積された過去1年間のデータを用います。次に、ECサイトで取り扱っているすべて商品の単価、販売個数、売上高などのデータを商品ごとに集計し、売上高を算出します。顧客ごとに販売金額が変動する場合でも、単純に商品の標準販売単価×販売個数で売上高を計算します。各商品の売上高が入力できたら、ECサイト全体の売上金額に対する各商品の売上構成比を算出します。売上構成比は、商品ごとの売上高÷全体の売上金額×100で算出できます。
ECサイトのすべての商品の売上構成比が算出できたら、大きい順に並び変えてA、B、Cにランク分けします。ABC分析において、ランク分けの基準に決まりはありませんが、パレートの法則にしたがって上位20%を区別するのが一般的です。得られたABC分析結果をもとにパレート図を作成すると、ECサイトの売上への貢献度を視覚的に把握できるようになります。パレート図はExcelのグラフ挿入機能を利用して簡単に作成できます。
さらにABC分析には、クロス分析という応用手法もあります。これは、売上高と利益率の2つの評価軸で商品をランク分けする方法です。ECサイトの商品の収益性に注目したABC分析を行うことが可能となり、より実用的な分析結果を得られます。作業の難易度が高くなるのが難点ですが、さまざまなABC分析を自動化できるツールも多くあります。ECサイトの目的に応じたABC分析ツールを導入すると複雑な分析も簡単にできるので、より複雑な分析を行いたい場合はABC分析ツールの導入も検討しましょう。
◎ECサイトでABC分析を活用するポイント
ABC分析をECサイトの売上アップにつなげるための、いくつかのポイントがあります。ECサイトの分析結果を効果的に活用するには、それぞれにランク分けされた商品の取り扱いや、各部門担当者とのコミュニケーションが重要です。また、在庫を持たないECサイトのビジネスモデルにおいては、通常とは異なるABC分析をする必要があります。
ECサイトのABC分析の結果としてCランクになった商品であっても、安易に取り扱いを止めるのではなく、その役割について多角的な視点からの検討が必要です。たとえば、ECサイトの主力商品との相乗効果が期待できる商品や、ECサイトのブランド戦略に寄与している商品など、ほかに影響がある場合は取り扱いに注意が必要です。また、売上高はCランクでも利益率がAランクの商品であれば、販売戦略の見直しをすると、ECサイトの売上アップにつながる可能性が高まります。一方で、ABC分析の結果Aランクに入った商品についても、同じことがいえます。Aランクだからと安心するのではなく、広告に依存していたり流行に影響されていないかなど、多角的なマーケティング視点を持つことは、ECサイト運用において重要なポイントです。
ECサイトでABC分析を行う際、過去1年間のデータを用いることが一般的ですが、新商品は集計期間が短いため、ABC分析で本来の結果が反映されない可能性があります。ECサイトにおけるABC分析の結果で、新商品がAランク商品に入らなかった場合でも、販売期間を考慮したうえで判断する必要があります。同じように、季節商品についても注意が必要です。たとえば、年間行事や季節のイベントに用いられる商品、夏場や冬場のみ需要がある商品の場合、販売期間は限定的となります。そのような商品は、ECサイトのABC分析結果において一見ランクが低くても、特定の期間においてはAランク商品となり得ます。このような影響をおさえるためには、四半期に区切ってECサイトのABC分析を行う方法が有効です。ABC分析を行う目的に応じて、比較的安定した期間を設定し、定期的に分析を繰り返すことで、ECサイトの売上アップにつながります。
ABC分析の結果は、ECサイト運用におけるひとつの指標であり、それがすべてではありません。たとえば、ABC分析結果の数値だけを重要視して、ECサイトの販売戦略を立案すると、各部署との軋轢につながることも懸念されます。同じAランクの商品でも、仕入れが容易なものと困難なものが存在する場合、仕入れが容易な商品に注力した方が合理的なのは明確です。また、流行や社会情勢の影響による一過性の売上高の増減にも注意する必要があります。このように、ECサイトにABC分析を活用する際は、単なる商品のランク分けにとどまらず、各担当者とのコミュニケーションを図って販売戦略を立案しましょう。
在庫を持たないECサイトでロングテール戦略を取り入れている場合、従来のABC分析では効果的な結果は得られません。ロングテール戦略では、幅広い商品を取り扱うことで売上の安定化を図るため、在庫価値よりも利益貢献度を重視する必要があるからです。このようなECサイトでABC分析を行う場合は、売上高や利益率に加えて、コンバージョン率を評価軸に加える必要があります。コンバージョン率とは、そのECサイトを訪問した人数のうち、どれだけの人が購入したのかを算出したもので、ECサイトの成果を図るうえで欠かせない指標です。また、ECサイトで幅広い商品を取り扱っている場合、商品によって粗利率が大きく異なる可能性があります。ABC分析の結果による売上上位の商品が、必ずしも利益上位とは限らないという点も、留意しておくべきポイントです。商品の売上だけではなく利益への貢献度を正確に把握することが、効果的なABC分析の結果を得てECサイトの売上アップにつなげる重要なポイントとなります。さらに、自社で在庫を持たない分、サプライヤーの供給状況に影響を受けることが予想されます。たとえAランクの商品でも供給が不安定な場合は、優先度を下げる必要があります。
◎まとめ
ABC分析は、ECサイトの売上アップにつながる有効な手法です。売上や利益貢献度の高い商品を明確にし、効果的な販売戦略の立案や在庫管理、プロモーション施策の最適化に役立ちます。とはいえ、ABC分析の結果だけに依存せず、Cランク商品の役割や季節性、新商品の販売期間、ロングテール戦略など、多角的な視点を持つことが重要です。継続的な分析と現場との連携を通じて、ECサイトの売上アップを実現しましょう。
